2010年03月20日

★Tomocolumn17「ドルフィンスイム変遷」★

ds-1.jpg小笠原は野生のイルカに会える海で、彼らを目的とする観光客が大勢いらっしゃいます。でも、この海では、ずっと昔から今のようにイルカと泳げていたわけではありません。
以前は、野生のイルカに遭うのは、夢のまた夢でした。20年前の私が一生に一度でいいから海で遭いたいと夢見ていたのが「マンタ」「ジンベエザメ」、そして「イルカ」でした。野生のイルカに本当に遭えるなんて、まして一緒に泳げるなんて、当時の私には想像もつかないことでした。
そんなあの頃から、では、どうやって今のイルカと泳げる海になったのでしょう。
80年代後半(ああ、トシがばれる・・・!)、小笠原への観光客はダイバーと釣り師ばかりでした。ダイビングボートでの行き帰りに、まれにイルカを見つけることがありました。ダイバーたちは大喜び。船首波に乗る姿やジャンプする姿に拍手したものです。
ds-2.jpgで、何しろダイバーですから、海の中でイルカを見たいと飛び込むようになりました。でも、ジャイアントストライドで入っても、びっくりしたイルカはあっという間に逃げ去ります。いつも、先着1名か2名が逃げ去るイルカを一瞬見られるだけでした。それでも、見られた人は大はしゃぎ。他の人たちの羨望のまなざしを受けたものです。なので、この時期は、イルカを見つけたらとにかくさっさと準備して、ボートから飛び込む先頭に立つのが肝心だったものです。
ところが、そのうち、逃げないイルカが現れたのです。ヒトが飛び込んでも平気なので、海に入った全員が見られるようになりました。あの、頭に白い丸があるイルカは逃げないね、嬉しいねと噂が広がると、次には、彼がいる群の他のイルカたちも逃げなくなったのです。
同じ頃、ダイビング中にイルカに会う機会も増えました。つまりは、イルカたちが水中のヒトに慣れてきたのでしょう。潜っててふと気付くと、イルカがいる!わわわ!と慌てるうちに、いなくなります。サカナを見てるダイバーの後ろからイルカもそっと覗きこんでる、なんてこともありました。
そんなふうに海で互いの存在を認めるようになり、いよいよドルフィンスイムの始まりです。
ds-4.jpgはじめは水中でヒトという見慣れない生きものを警戒して遠くを泳ぎ去ってたイルカたちも、やがて、所詮、ヒトはイルカに追いつけないとわかったようです。一目散に逃げるのではなく、横目でヒトを見ながらそのまま泳いでくれるようになりました。または、こちらの泳ぐ速度をはかりつつ、追いつけそうで追いつけない距離を保ったり、後ろから脇を追い抜いていったりと、ヒトをからかう面白さも覚えたようです。そのくせ、いざ逃げるとなったら、あちらに向かうふりをしつつ、潜って方向転換して猛スピードで泳ぎ去る、なんてフェイントも使います。ときに、好奇心の強いイルカが近づいてくることもありました。こちらが上手くそれに合わせると、一緒に並んだり水中で廻ったりもできます。彼らも、ヒトとのスイムを楽しんでくれてるのでしょう。
私たちも、イルカたちに嫌われないよう、彼らの意向を尊重することを覚えました。赤んぼうがいて神経質なとき、採餌に忙しいとき、ゆっくり休息してるときなどは邪魔しまいと心がけます。そう、いつだって、イルカのほうがペースを合わせてくれるからこそ、私たちは彼らに近づけるのですもの。
ds-3.jpgイルカとヒトとは姿形も違えば言葉も通じませんけど、じっと眼と眼を合わせると、互いの気持ちが伝わります。楽しそうに笑ってたり、興味深そうに観察してたり、不機嫌なのをガマンしてたり。こちらも、自然に相手の状況に合わせた行動をとるようになります。
イルカを見つけてボートから海に入ると、当のイルカが水中で縦になってこちらを待ってる、なんてこともよくありました。あらぁ、待っててくれたの、と嬉しくて嬉しくて! たまたま私がイルカの絵の水着を着てたら、不思議そうにじーっとその絵を見つめてたこともあります。水中で首をかしげて考えこんでる表情の、おかしかったこと!
またある日、彼らが海藻やビニールの切れ端をヒレに引っかけて遊んでいました。切れ端をくわえて私の目の前に持ってくると、試すようにそっと放します。私がそれをつかんで振って見せ、ほうら、と放すと、喜んでまたそれをくわえていきました。
世界でイルカを見られるところは何カ所もありますが、飼育下のイルカだったり、餌付けしてたり、または水中で通りすぎるイルカを見るだけだったりが案外多く、野生のイルカと一対一で遊ぶことができる海は、ほんの数カ所です。小笠原は、イルカとコミュニケーションをとれる、とても貴重な海になったのです。
ds-5.jpgそんな小笠原ですが、年と共にツアーボートもお客さんも増えて、スイム事情もまた変わってきました。ある意味では、以前よりイルカをウォッチしやすくなりました。ヒトやボートの動きを覚えて、必要以上に警戒することがなくなってます。水中でヒトを見ても、ああ、またこいつらか、と逃げずにいるので、近くで見やすくなったのです。
ただまた、いつまでも一緒に遊んでくれることが減ってます。もしかしたら、ヒトに飽きてしまったのかもしれません。以前のように一度海に入ったら30分・1時間と並んで泳ぎ続けることが、めっきり少なくなりました。
さて、これからの小笠原で、イルカとヒトの関係はどう変わっていくのでしょう。いつのまにか、父島で20年前からイルカを海の中で見続けてきたスタッフは、私だけになりました。これまでの変遷を知らなければ、今のスイム環境を当たり前と思うことでしょう。でも実は、今の環境は、イルカとヒトの信頼関係で長年かけて育んでできたものなのです。
今でもなお、イルカがヒトと遊んでくれることもありますし、通り過ぎるイルカを近くで見てるだけでも楽しいです。でも、たった20年でこんなに変わってきた彼らとの付き合いが、この先の10年20年でどう変わっていくのか。
危機感を持ちつつ、それだけに今、彼らが私たちを受け入れてくれてることを喜び、イルカたちとの良い関係を守り続けていきたいと願ってます。(T)