2008年05月29日

★Tomocolumn 12「マッコウウォッチのあけぼの」★

20_05.jpg今、小笠原でホエールウォッチというと対象はザトウクジラとマッコウクジラが当たり前になってますが、マッコウはザトウよりウォッチ歴が新しいです。
88年から始まったザトウウォッチに続いて、果たして他の鯨種のウォッチが可能かどうか、OWAを中心に調査が行われてました。最初に調べられたのは、捕鯨の対象になっていたニタリクジラ。でも彼らの生息域は父島から日帰りでは行けないくらい遠く、ツアーは成り立たないと判明しました。
次に候補となったのが、マッコウクジラです。彼らのウォッチツアーの可能性を探るため、何度も何度も調査が行われました。Sea-Tacでは、これらの調査にたいへん積極的に(何しろ、スタッフ自身が見たい一心ですもの)協力してました。
20_02.jpgそれにしても、いったいどうやってマッコウを探せばいいのか。誰も見たことがないので、文献と首っ引きで方法を模索しました。水深1000メートル以上の海域にいるとわかり、そのあたりをとにかく走り回ります。ブローらしきものを、探して、探して、探して。数名の調査員が交代で海上に目をこらします。ゴンドウを見たりマダライルカに会ったりするけど、何日たっても、マッコウにはなかなか会えません。
そんな私たちが、初めてマッコウクジラを見つけたときの感激といったら!「あれ!ブローじゃないか!」「お!そうだそうだ、きっとブローだ!」「あ、本当に斜めに上がってる・・・!!」。ザトウほど高くなく、でも確かに斜め45度の角度で上がるブロー。近づいて見たマッコウは、なるほど、鼻の穴が左前にひとつだけ開いてるではないですか!ザトウとは違って体の幅が狭いから、水面上に現れる部分が細くて電柱みたいなこと、いったん浮上すると何回も何十回もブローすること、潜ってしまうと30分も1時間も出てこないこと。初めて知る何もかもが、驚きです。
20_01.jpg水中にマイクを入れてみると、聞こえてくるのは・・・??? 何、この音は?何かの機械??カチカチという音は、ザトウのソングとはまったく違います。でも、ひとりが「そういえば、マッコウの出す音はクリックというらしい。これがそうなのではないか?」といいだし、他のメンバーは、へーえ!と感嘆しきり。こんな音を生きものが出すのか・・・と、半信半疑でもあります。
相手のマッコウも、私たちのボートに驚き、興味津々でした。たぶん、これまでこの海域を走るのは漁船や貨物船ばかりで、10メートルくらいの船が、しかも近くで停まるなんて経験はなかったのでしょう。代わる代わる、船をチェックにやってきます。水面上に丸い頭を突き出しては、あっちに向けたりこっちに向けたり、音をぶつけて調べてます。調べられてる私たちは、その黒く丸い頭に喜んだり、音を当てられてちょっと緊張したり。また、その大きな体を横にして、船の周りを泳いでその目でこちらを見上げてます。まさに図鑑で見るマッコウクジラの四角い全身が、水面下にはっきりと観察できます。身体の表面には、深いしわが何本も走っています。そのうち、好奇心の強い一頭が、ボートの後ろのステップに体をこすりつけてきました。私たちは、デッキの上からその体をぺたぺたと触れちゃいます。
20_04.jpgこの時期の、ヒトとマッコウとの、お互いに驚きと感動を伴った交歓の楽しさは忘れられません。マッコウたちも、私たちとの遭遇を大いに面白がっていたはずです。決してコンスタントには会えないぶん、彼らに逢えたときの喜びは格別で、その一挙手一投足 、じゃない、一挙ヒレ一投ヒレにいちいち、感嘆、喜び、興奮したものです。
ある日など、海に架かる虹の下をくぐって(ように感じた)行った先の海域で、めくるめくマッコウクジラとの出会いがあり、また帰りに虹をくぐったとき、ああ、あれは夢の中の出来事で、父島に戻ったらカメラの中のフィルムは煙と化すのではないかしら、と半ば本気で思ったものでした。
そんな試行錯誤と観察の日々を重ね、初期のマッコウ遭遇率は30%以下でしたが、独自にマッコウを探し続けたSea-Tacが、父島南東海域にあるマッコウポイントを確認したあと、多くのショップがマッコウツアーを始めました。今では、ごく普通にマッコウウォッチが行われ、とりわけ秋の遭遇率は高いです。
でも、ツアーが増えるに従って、マッコウたちはボートへの興味を失い、生息域も次第に沖へ動いています。つくづく、クジラと私たちは大きく影響し合ってると感じます。この先のマッコウと私たちの関係がどうなるか、はじめの頃の感動を忘れずに、注意深く観察し続けていくつもりです。