2007年10月31日

★Tomocolumn 10「北の果てで感じた温暖化」★

18_02.jpg6月上旬、北極圏のバフィン島に行ってきました。ホッキョククジラとイッカクとベルーガに会う旅です。彼らの姿かたちはとても印象的でしたが、彼らと同じように強く印象に残ったのが、現地のハードな環境と著しい温暖化の影響でした。
バフィン島の北、凍った海上のキャンプで2週間を過ごします。氷が割れて水路ができる時期で、そこを通るクジラを待つのです。
出迎えてくれたガイドのイヌイットたちは、私たちとそっくりの顔をしたモンゴロイドですが、真っ黒に日に焼け、深く刻まれたシワのせいで年齢がわかりにくいです。でも、たった数日を過ごすうちに、私たちの顔もみるみる黒く、そしてシワだらけになりました。すでに小笠原で日焼けの下地ができてると多寡をくくっていたけど、北極の紫外線は半端ではありません。日焼け止めをべた18_04.jpgべた塗っても、焼けていきます。誰もが、塗り忘れた鼻の下(穴のあるところ)の皮が剥けてぼろぼろです。どの顔も、日々、シワが深くなっていきます。鏡はないけど、手で触れる自分の顔はごわごわしてます。
敵(?)は、紫外線だけではありません。温暖化の影響で、例年の冬は零下50度になるのに、今年は零下30度にしかならなかったとのこと。20度の差は、なんて大きいのでしょう。そのため氷が割れるのも早くなるだろうと、実は、ツアーの日程を予定より1週間早めましたが、それでも間に合いませんでした。氷の割れ目はすでに大きく広がり、クジラたちははるか沖を通過していくのでした。
キャンプを設営している氷も、予想外の暖かさに解けはじめました。テントの中には水が溜まってきます。キャンプ地のうしろは、もともと海岸であるところの崖なのですが、その上の雪も解けて、凍った海に流れ込む滝ができてしまいました。18_03.jpgその水量は日ごとに増え、不安も募ります。足下の氷が白から水色に変わり、あちこちずぶずぶゆるんできました。いつどういうふうに氷が解けきってしまうのか、ある日突然、海になってしまうのか、どきどきはらはらです。イヌイットたちも、キャンプを移動すべきか、毎日、話し合ってます(でも、なかなか結論が出ない)。
水路際の氷上でクジラを待っていたとき、たった今までMAKOTOが立っていたその縁が、ふいに、大きく崩れて海に落ちていきました。そこに立ててたビデオカメラが、三脚ごと傾き、海へ消えていきました。たまたま、MAKOTOがお茶を飲みに後ろへ下がっていたあいだの出来事でした。撮った映像を失ったのは残念でしたが、でも人が落ちなかったのは本当にラッキーでした。
18_01.jpg天候も変わりやすく、同じ場所なのに毎日景色が異なります。朝から夕方までクジラを待つあいだにも、風が北から南に転じたり、海上の氷がこちらに吹き寄せられたり向こうに去ったり、晴れたり霙になったり。そのたびに右往左往させられます。
怖かったのは、ホッキョクグマです。地上の同じレベルで会うホッキョクグマには、銃を持ってるイヌイットがそばにいるとはいえ、クマまでの距離は数百メートルあるとはいえ、単純な恐怖を感じます。皆から離れて用足しに行き、人間の足跡だと安心してたのが、よく見るとクマの足跡だと気付いたとき、または、夜中に私がトイレに起きたその30分後、キャンプ地にクマが現れたと聞いたとき、かなりギョッとさせられました。
18_05.jpgでも、北極のいきもののうち、もっとも温暖化による絶滅が心配(ほぼ確実視!)されてるのも、ホッキョクグマです。そりゃあ面と向かったら怖いけど、クマの世界に入り込んでるのはこちらのほうなわけだし、あんな雄々しく美しい生きものが地球上で見られなくなったとしたら、なんて淋しいことでしょう。
さまざまな体験を終えて小笠原に帰ると、湿った空気の中にいるだけで、まるでパックしてるよう。みるみる肌がしっとりするのがわかりました。顔を触っても、もうごわごわしてません。ほっ。
でも、今も、あちらではイヌイットたちがパックすることなく(たぶん)、あの厳しい環境で生活を続けているのです。厳しいだけでなく、温暖化という新たな敵を抱えて。イヌイットのみならず、クジラたちも、そしてホッキョクグマたちも。