2011年02月27日

★Tomocolumn 20「網にかかったクジラ」★

2010年12月某日、いつものツアーに出て昼休憩を終えた頃、無線が入りました。どうやらザトウ情報らしいのですが、よく聞き取れません。とにかく行ってみようと父島の南側へ向かうと・・・。
20-1.jpg無線をくれたダイビングボートはいますが、ブローは見えません。近くまで行って、ようやく、1頭のザトウクジラの背中を確認できました。でも、動きがおかしい。どうしたのだろう? ん? 誰かがクジラの横で泳いでる? 何をしてるの??
ボートのスタッフに尋ねると、なんと、クジラに大きな漁網が絡まってるとのこと。網にはたくさんの浮き玉がついていて、クジラは潜れずに水面で浮いたまま息も絶え絶えの状態だったそうです。そこでやむなく、スタッフのひとりが泳いでその網を切る作業をしてるとのことです。
ちょうど漁網の大部分を切り離したところで、それはそれは大きく重そうな網の塊りをボートに引き上げていました。
それでもまだ少し網が残ってると聞き、ダイビングへ向かうそのボートから作業を引き継ぎました。見れば、クジラはゆっくりながら水面を泳いでます。水中に入って状況を確認すると、口の両端からロープを引きずり、二本分が背中を回ってその後ろへかなり長く伸びています。放っておいたら、これがまた何かに絡まってしまいそうです。そこで、あとからやってきた別のダイビングボートのスタッフと共に、その長いロープを切る作業にかかりました。ロープを引くと、口の中からずるずるとまだ出てきます。全てを引き出せたらよいのだけど、それはできず、なるべく口に近いところで切ることにします。
20-2.jpg泳いでいたクジラはやがてほとんど停まりましたが、すぐ横まで行くと、ときに胸ビレで叩くような仕草をするので、油断できません。私たちが何をしようとしてるのかわからず、かえって怯えてるのかもしれません。
作業にかかるとき、私の耳にクジラの声が聞こえました。低く、伸ばすように、一声、二声、そして三声。ソングではなく、またクジラ同士でお喋りしてるときの声でもない、初めて聴く声でした。なんて切なく響く声でしょう。こんな状況だけに、私には、このザトウがまるで自分が陥った悲運を嘆いてるように聞こえました。
それぞれが注意しながら、時間をかけて、何とか両端とも2mほどにまでロープを短く切り終えました。これくらいなら、クジラにとってそれほど負担にならずにすみそうです。全員がボートに戻ると、クジラはそのままぷかぷか浮いてました。絡みついてた重い漁網がなくなったのは、わかったはずです。深い呼吸を繰り返して、そのブローもはっきり見えるようになりました。と、クジラはその場で向きを変えて、ぐるっとひと回りしました。折しも、私が個体識別の手がかりに背ビレの写真を撮ってるときでした。左側を撮り終えて、「右を撮りたいから、クジラの反対側へ回って」とキャプテンに頼んだちょうどそのとき、それが聞こえたかのように、クジラは向きを変えて逆の背ビレを撮らせてくれたのです。そして、何を思ったのか、クジラは船に近付いてきました。水面下に、頭も傷だらけの背もはっきり見えます。ぶつかりそうなくらい舷に寄ってきて、大きく一呼吸して、それからゆっくり潜っていきました。
20-3.jpg次の浮上をしばらく待ったのですが、50分待っても現れません。後ろ髪を引かれながら、私たちはその場を離れました。
もう一度、無事な姿を確認したかったなぁ。よほど遠くに浮上して、見つけ損なったのでしょうか。ようやく潜れたクジラは、喜んでぐいぐい水中を泳いでいったのかしら。それならいいのだけど。決して、力尽きて沈んだようには見えませんでした。あきらかに、自分の意志で潜っていきました。だから、そのあと、きっとどこかに浮上してるはず。どうかどうか、元気でいてくれますように。
果たして、このときのクジラは、私たちが漁網を切って助けようとしてるのはわかったのでしょうか。もちろん、眼で、水中の私たちを見てました。最初は警戒していたにしても、ヒトが近付くことによって、動きのとれないからだが軽くなっていくのを感じとれたのでしょうか。ヒトとしての勝手な期待では、潜る前にわざわざ船に近付いてきたのは、感謝の気持ちを示したかったのかと。・・・うーん、どうでしょう。
20-4.jpg漁網が絡まったクジラやイルカの話はこれまでにも聞いたことがありますが、うまく外してやれた例は寡聞にして知りません。身動きがとれずにパニクっているクジラやイルカに寄るのは、大変危険でもあります。今回のザトウの場合は、かなり弱っていたからこそできたことです。それでも、最初は、近付こうとするとぐるぐる水面でのたうち回って嫌がったそうです。にもかかわらず、網を切るのをあきらめなかった最初のボートのスタッフに、敬服します。
漁網以外にも、金属の輪がすっぽりクチバシにはまってしまったミナミハンドウイルカの子を見たこともあります。口を開けることができない子イルカは、みるみる痩せていきました。はずしてやりたくて私たちが近付こうとするのですが、追いかけられてると解釈した親子のイルカは一目散に逃げていきます。このときくらい、言葉が通じさえすれば、と悔しく思ったことはありませんでした。ちょっと停まってくれれば、外してやれるのに。
海の中で私たちがクジラやイルカを助けられる機会は、あまりにも少ないです。今回が、そのまれな例になっていたら嬉しいのですが。しばらくは、ザトウを見るたびに、あのときのクジラかと背ビレを確認してしまうことでしょう。(TOMOKO)

posted by Tomoko at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 網にかかったクジラ
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