2006年12月30日

★Tomocolumn 07「七つの顔を持つクジラ」★

15_01.jpg「春告鳥」といえばウグイスのことですが、小笠原の「春告鯨」はザトウクジラでしょうか。気の早いザトウの初確認こそ冬ですけど、その数が増えて沿岸でさまざまな生態を見せてくれるのは、まさに立春の頃からです。そして春たけなわのウォッチングシーズンには、雄と雌とが恋を語らったりベビーが日ごとに成長したりと、彼ら自身にとっての春をも満喫しているのです。
そんなザトウクジラですが、といって、どこででも必ず「春を告げて」いるわけではなく、海域によって現れる季節が違います。そして面白いことに、「クジラ七変化」ともいえるほど、見せる顔(姿や行動)も異なります。
15_09.jpg例えば、餌の取り方ひとつとっても、アラスカではバブルネットフィーディング、ステルワーゲンバンクではキックフィーディング、ニューファンドランドでは手つなぎ鬼フィーディング(ごめんなさい、英語での呼び名が無く、勝手に名付けました)と、それぞれ興味深い方法を編み出してます。
また、ザトウクジラは採餌海域と繁殖海域とを季節回遊してますが、食べてる半年と絶食してる半年とでは、その体格から変わってしまいます。小笠原で見るザトウを大きいなぁと思ってた私ですが、アラスカでの大きさにはいっそう驚かされました。たっぷり二回りは太ってるでしょうか、水面上に現れる部分もずっと広くて、丸々、ぷっくりしています。とりわけ、夏中食べ続けたあとの9月のでっかさといったら! この頃には当歳生まれの子クジラもずいぶん育っていて、ちょっと見には親と区別が付かないくらいです。
15_07.jpg違うのは体つきだけではありません、満腹してるクジラたちの動きはおっとりしてます。深く大きな呼吸を1回、そしてもう1回。ゆっくりフルークをあげて潜っていくまでの動作は、ビデオを遅回しにしてるよう。大気が冷たいせいでいつまでもその場に形がとどまるブローからして、まるでストップモーションです。
水面に浮かんだまま、気持ちよさそうに熟睡してるクジラも見かけます。船が近づいても気付かないのか、全く動きません。死んでるのかしらと不安になる頃、ようやくたーーっぷり深々と呼吸をし、そしてまたぐっすり寝入ってしまいます。こんなに寛いでるクジラなんて、小笠原では会ったことはありません。ザトウたちは、北の豊饒の海で、食っちゃ寝、食っちゃ寝の幸せな日々を過ごしてるのでしょう。
15_08.jpg一方、小笠原でのように、クジラ同士が激しくぶつかったり追いかけ回したりという闘争的な姿は、アラスカでは見かけません。荒々しいブロー音、めまぐるしく水面を泳ぎ回る巨体、威嚇する水しぶき。そんな猛獣のような迫力あるさまは、繁殖海域ならではです。呼吸もへたくそなベビーの仕草や、ママの側で跳び回るチビのやんちゃ振りに眼を細めていられるのも、生まれて間もない小笠原の海だからこそ。
このほかにも、海域ごとの違いを挙げていけば、まだまだたくさんあります。
皆様もご承知のように、ウォッチングでは日によって見られる行動が違いますが、海域が異なればなおさら、その生態や姿も変わり、「ザトウとはこういうもの」「こんなことをするもの」と、ひとことで決めつけることはできません。そんな彼らだからこそ、遭うたびに新鮮な発見と感動を受け続けるでしょう。
アラスカといえども、日の長い夏の終わり。フィヨルドの中で船を停めて、デッキの上でビールを傾けながら、あっちに浮いてるクジラやこっちで林立するブローを眺める穏やかなひととき。
小笠原といえども、風の強い春の初め。波やうねりに大揺れする船の手すりにしがみつきながら、ブホブホと猛り狂うクジラの迫力に思わず悲鳴を上げるドラマチックなひととき。
うーん、どちらのウォッチングも捨てがたい!
というわけで、クジラフリークの私たちは彼らのいろいろな顔を見たくて、何日も、そしてあちらこちらへと、ひんぱんに海に出て行かざるを得ないのですよね。
さて、来る2007年、ザトウたちはどんな新たな顔を見せてくれるのでしょうか。楽しみです。